vol2.「セイウチの子育て」

セイウチは、1月~3月に交尾をし、約15ヶ月の妊娠期間をへて4月~6月に1頭の子どもを産みます。子どもは母乳を飲んで成長し、授乳期間は鰭脚類の中ではとても長く、2年間以上続き、中には3年間も母乳を飲み続ける甘えん坊もいます。生まれたときは、体長1m・体重60kgほどですが、授乳が終了するころには、体長2m・体重300kgほどに成長します。おっぱいはお腹の左右・前後に合計4つあり、子どもは飲みやすい位置の乳首に吸いつきますが、生後1ヶ月間の水族館での観察では、後ろの乳首を吸う方が多いことがわかりました。

出産後、母親は子どもを連れて海にエサを食べに行きます。そのため、子どもは生まれてすぐに水中へ入って泳ぐことができ、水中でも授乳をします。セイウチの母親は子どもの面倒をよく見て、水中で子どもを抱いたり、背中の上に子どもを乗せて移動するなどの光景がしばしば見られます。母親が前あしを子どもの口元でこきざみにふり、子どもの興味をひきおこそうとするなど、ちょうど私たちが赤ちゃんをあやすような行動も観察され、セイウチの知能の高さと母子のきずなの深さを感じさせます。

子どもは生後6ヶ月ごろより、母乳を飲みながらエサを食べ始め、次第に離乳していきます。セイウチは順調に繁殖が進んだ場合は、3年に1度出産をします。離乳をしても母子関係は次の子どもが生まれるまで続き、昼間はそれぞれ単独でも夜になると母子がぴったり寄り添って眠ります。子別れは次の子どもの出産とともに突然おこります。子どもが母親に近寄ろうとすると、母親は新生児を守るために子どもを威嚇し遠ざけようとします。子どもは母親の突然の変化に初めはとまどいますが、そのうちあきらめ次第に独立をしていきます。

かわいそうと思う反面、野生動物の厳しい「おきて」を感じるときでもあります。

著者紹介

荒井 一利(あらい かずとし)

荒井 一利(あらい かずとし)
1955年 東京都生まれ
北海道大学水産学部卒業。専門は海生哺乳類。鴨川シーワールドで海獣類の飼育担当等を経て、館長に。現在、社団法人日本動物園水族館協会副会長を務める。

著書
『海獣図鑑』(文溪堂)など