
特別天然記念物、オオサンショウウオ。環境省レッドリストⅡ類
オオサンショウウオは「渓流の王者」としてよく描かれる。それは本当だろうか。安佐動物公園が調査を始めた頃、分布の西限に近い広島県では明確な生息地が知られてなく、聞き込み情報を頼りに手探りの調査をしていた。珍しい生きものなので、山奥の渓流に住んでいるのだろうと思い、山中にキャンプをしてはオオサンショウウオを探していた。ところが、いつまでたってもオオサンショウウオは見つからない。毎月調査に出かけおおかた2年になろうとしていた時、記念すべき1頭目が見つかった。それはキャンプ地からかなり下流の、人家に近い所であった。発見者の若林隊員から「発見!」の報を得て、小原園長(その頃、酋長と呼ばれていた)はキャンプ地から走って来たが、途中で眼鏡は落とし、どのようにしてたどり着いたかもよく分からないほどの興奮ぶりだったと語り伝えられている。このとき以来、安佐動物公園では、オオサンショウウオは奥山の渓流に住むものではなく、人里近くの川に住んでいると考えるようになった。青い鳥は意外と近くにいるものなのだ。
2000回以上もの出会いを果たした今、オオサンショウウオの生息範囲はと尋ねられたら、「上流域の下部から中流域の上部」と答える。中国山地の生息地では、山の中の渓流にもいるが、数が少なく、なぜか小さい。その謎についてはいつか持論を話そう。オオサンショウウオの分布の中心は、川が山を出て田畑が広がり始める地域である。そのあたりは、いわゆる里山と呼ばれる地域で、田畑や人家の間を流れる変哲もない川にオオサンショウウオは住んでいる。彼らの住家は川土手を護る竹藪が水に洗われた根の奥であったり、石積み護岸の隙間穴だったりする。彼らが好んで住み付くところは人間が作り出した環境で、何百年の昔から、オオサンショウウオは人と共に生きてきた。ただ、人はこの隣人のことをあまり知らない。それはオオサンショウウオと人とは住む世界が違っているからだ。人は陸上に暮らし、夜は寝る。オオサンショウウオは夜行性で、人が苦手とする水世界に、それは静かに生きている。近くて遠いこの隣人を知ろう。それが私たちの研究だ。

安佐動物公園が初めて出会ったオオサンショウウオ。
1972年6月23日 広島県高野町岡大内川

オオサンショウウオが生息する川。広島県北広島町志路原川

桑原一司(くわばらかずし)
広島市安佐動物公園 副園長(事)管理課長
1949年 愛媛県松山市生れ。子どもの頃から自然大好き。愛媛県立博物館に育てられたと、自分では思っている。中学生のころ、道後動物園にオオサンショウウオが保護され見に行った、あの不思議な生きものが忘れられない。
愛媛大学理学部生物学科、熊本大学大学院理学研究科修士を経て、1974年、飼育技師として広島市安佐動物公園に勤務。すぐにオオサンショウウオチームに入り、以後36年間オオサンショウウオの調査研究に従事。おもに、トラ、水鳥などの飼育、教育活動に従事。管理課長を経て2009年から現職。
オオサンショウウオの研究をまとめたくて、2004年に広島大学大学院国際協力研究科に入学。2007年卒業、博士(学術・オオサンショウウオの繁殖行動の解析)取得。
自然の研究、カメラ、園芸、美術鑑賞など多趣味。
・JAZA種保存委員会爬虫両生類類別調整者
・日本オオサンショウウオの会会長
・アンフィビアン・アーク日本代表理事。