
数年前から、毎年6月頃になると、南米のブラジル~ウルグアイ~アルゼンチンの海岸に「異常な数」のマゼランペンギンが漂着するようになりました。2009年には、私もNHKの報道番組『今日の世界』に解説者として呼ばれ、ブラジルでの漂着状況とその背景についてコメントしました。
もともと、マゼランペンギンの主要な繁殖地はアルゼンチン(大西洋岸)~チリ南部(マゼラン海峡・太平洋岸)にあります。そこで巣だった若鳥達は、6~8月にかけて、南米大陸の大西洋岸に沿って北上し、2~3年かけて海上を旅した後、自分の繁殖地周辺に戻ってくる。そう考えられています。また、この若鳥の群れに成鳥も加わり、時にはブラジルの海水浴リゾートとして名高いコパカバーナ海岸沖よりさらに北に姿をみせることもあるのです。


こういうマゼランペンギンの生態を「渡り」と呼ぶ学者もいます。マゼランは「渡り鳥」ではありませんが、その移動距離が数千㎞に及ぶこともあるのでそう言うのです。また、「回遊」という表現を使う場合もあります。
海上や海中でのペンギンの生態は、今から30年ほど前までは、ほとんど「謎」でした。しかし、ハイテクを駆使したいわゆる「バイオロギング・サイエンス」の技法によって、最近20年間に様々なことがわかってきました。例えば、東京大学の佐藤克文先生は、南極ペンギン(アデリーやエンペラー)にカメラを含む様々な超小型計測器をつけ、その泳ぎについて非常に興味深い研究成果をあげていらっしゃいます。
とはいえ、長期にわたる洋上での行動については、未だに「謎」が多いのです。マゼランペンギン以外でも、イワトビペンギンの一部は、かなり長期かつ長距離の「回遊」をすることが知られています。しかし、その移動ルートや、「回遊」そのものの意義については、まだよくわかっていないのです。


さて、マゼランペンギンの漂着のお話です。
これまでも、ブラジル~アルゼンチンの海岸に、毎年7~8月にかけて数百羽のマゼラン(特に若鳥)が漂着することは知られていました。まだ、体力がなく、餌とりや泳ぎの未熟な若鳥は、海が荒れたり餌の魚が少なかったりすると、疲れて風や波に流されてしまうからです。
しかし、最近数年間は、その数が千から二千に膨れ上がっているのです。しかも、漂着する地域が、南のアルゼンチン海岸から北のブラジル海岸へと北にシフトしつつあります。中には、赤道近くで発見される個体もあるくらいです。これはいったいどういうことでしょう?南大西洋で、マゼランペンギンたちの身の上にいったい何がおこっているのでしょうか?
2010年8月、私は、その実状を調査するため、アルゼンチンとウルグアイを訪ね、長年この地域でマゼランの保全と救護に携わってこられた方々からお話を伺ってきました。また、漂着地域の海岸を、わずかな時間でしたが実地に観察することができました。


今、現地でいただいた資料やデータを分析しているところです。
非常に大きな問題ですから、また、「謎」に満ちた問題ですから、おそらく納得のいく結論は簡単には出せないと思います。しかし、マゼランペンギンの未来を考えると、このまま事態が悪化していくのをただ見守っているわけにもいきません。何か良い対策が浮かびましたら、また、ご披露したいと思います。
*写真はアルゼンチンとウルグアイの救護施設と、マゼラン達が漂着するウルグアイの海岸の一部です。

上田一生(うえだ かずおき)
1954(昭和29)年、東京都出身
國學院大學文学部史学科卒業
現職:目黒学院高等学校教諭(教科担当:地歴公民科)
ペンギン会議創設メンバーであり、今なお研究員として幅広い活動を行っている。
主な著書に
『ペンギンコレクション』平凡社、1998年
『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』岩波書店、2007年 など