どんどん、お母さんになっていく……。

  • うさこちゃんときゃらめる(2009)
  • ディック・ブルーナ 文・絵
  • まつおかきょうこ 訳
  • 定価735(税込)

うさこちゃんファンをちょっと驚かせしまうお話かもしれません。ある日、お母さんとクッキーを買いに行ったうさこちゃんは、
お金を払わずきゃらめるをおうちに持ち帰ってしまいます。万引き(?)(※1)をしてしまうのです……。

お母さんがクッキーを買う間、お店の中を見ていたうさこちゃんは、
赤、青、黄色、緑の色々な紙に包まれたきゃらめるを見つけます。
かわいくて、おいしそうなきゃらめるを見て、
うさこちゃんは欲しいなあと思います。
そして次の場面。
「それから、 うさこちゃんは とても とても わるいことを しました。
だれも みていないとき きゃらめるを こっそり ぽけっとに 
いれたのです……」
その夜、うさこちゃんはちっとも眠れません。眠れずにいるうさこちゃんの姿が、深い深いブルーナ・ブルーの奥に描かれています。
「なぜだか わかるでしょう? だまって おみせのものを とるなんて 
とてもとても いけないことだからです。」

このシーン、昔々、祖母の家の貯金箱から50円玉をこっそりとったことがある私は胸がきゅーっとなります。
だからこそ次の朝の、うさこちゃんの心許ない様子に気づき、
うさこちゃんを問いただすお母さんの存在にはほっとさせられます。
うさこちゃんの告白を聞いた、お母さんは、ぴしゃりと言います。
「まあ、うさこちゃん あなた なんて わるいことをしたの!」
そして、お母さんは、お店にきゃらめるをすぐかえしに行こうと言います。
もちろん、うさこちゃんをつれて。

この、お母さんのはっきりした態度には、ちょっと背筋がぴんとします。これまでの、おっとりとしたふわおくさんのイメージとちがって見えるからです。うさこちゃんの成長とともに、うさこちゃんとの日常の積み重ねとともに、お母さんもどんどんお母さんになっていると感じませんか?

この作品は出版時、うさこちゃんファンを驚かせてしまったようです。「衝撃の1冊」「しつけ本みたい」「かわいい女の子のままでいて欲しかった」……などなど。ブログ等に多くの書き込みがなされました。作者であるブルーナ氏は、この作品についてこんなコメントをしています。

ネインチェは子どもたちに、とても近い存在だ。子どもと同じように海へ行ったり、動物園へ行ったりすることもあれば、いたずらをすることもある。私は子どもがしてしまうことを描きたかったんだ。どんなことでもね。『うさこちゃんときゃらめる』では、ネインチェはいけないことをしてしまって、とても悲しい気持ちになるけれど、最後はもちろんハッピーエンドだよ。

<母の友674号66頁(福音館書店)「こんにちはブルーナさん!」文/野坂悦子 より抜粋>

これからも、きっといろいろな経験をしていくだろううさこちゃん。
それを見守るお母さんの変化にも注目してみてください。

※1
原書のタイトルは『nijntie is stout』。"stout"は、「わんぱくな」「いたずらな」「行儀が悪いこと」という意味で、万引きはちょっと大げさかもしれません。日本語版出版の際、タイトルをどうするかはとても議論されたようです。